ニューアルバム『夜にしがみついて、朝で溶かして』のオリジナルライナーノーツを募集する企画「ことばのおべんきょう-ライナーノーツ編-」がスタート!

2021.12.15

ニューアルバム『夜にしがみついて、朝で溶かして』のリリースを記念して、オリジナルライナーノーツを募集する企画「ことばのおべんきょう-ライナーノーツ編-」が12/15(水)よりスタートしました。

メディアプラットフォーム「note」にアカウントを作成し、「#ことばのおべんきょう」のハッシュタグを付けてライナーノーツを投稿してください!


投稿いただいた作品の中からメンバーが最優秀ライナーノーツを選出し、選ばれた方を2022年4月から開催する全国ホールツアーの東京・大阪公演に公式ライブレポーターとしてご招待します!


【企画概要】

受付期間:12/15(水)18:00〜12/31(金)23:59

最優秀賞:公式ライブレポーターとして全国ツアーにご招待


▼公式ライブレポーターご招待公演

2022/5/18(水) 中野サンプラザホール

2022/5/26(木) 大阪フェスティバルホール


クリープハイプ公式noteアカウント


クリープハイプ公式noteアカウントには、この企画に寄せた尾崎世界観のメッセージを投稿しています。

また、「お手本ライナーノーツ」として本屋lighthouse<幕張支店>の店主・関口竜平さんの全曲レビューも公開しました!


▼『夜にしがみついて、朝で溶かして』お手本ライナーノーツ(本屋lighthouse<幕張支店>店主・関口竜平さん)


1 料理 

あ、クリープハイプだ!って思ったらちょっと違うような気もするし、でもやっぱりクリープハイプだよなって曲ですね。ダブルミーニングの「尾崎⽂学」は相変わらずキマってるし、タイトル〈料理〉だし⼀瞬しあわせな曲なのかと思わせといてやっぱり「横にはツマ(妻)でしょ」なんだからもー。すぐ不穏にしちゃう!このあたりはいつものクリープハイプですね。でも楽器がいままでの感じと違うんでしょうか。たとえばイントロとアウトロでよく聴こえるドラムの拍⼿みたいな⾳。あまりイメージにない⾳使い(エフェクト)な気がしました。それと「ポコッ」って⾳が好きですね。なんの具材が跳ねたんだろうか……。 


2 ポリコ 

僕は尾崎さんがラ⾏を巻き⾆にして歌うやつが⼤好きなのでこれはもう最⾼ですね。あと「油断するとリズムがわからなくなるベースラインはじまりの曲はだいたいライブで映える説」を補強してくれる曲でもあります。⼩川さんもソロでステージの端まで⾏っちゃうやつ。でも〈HE IS MINE〉をあらためて聴いてみたら、ぜんぜん⾳作りが違くて驚きました。もちろん⾳響設備の違いもあるんでしょうけど、重⼼低いってこういうことなんですね......。 

歌詞に関しては、僕は世間的には「擦ってる」側の⼈間とされてるはずなので、バトることになるのかもしれません(笑)。でもずっと尾崎さんが表現に関して悩んでいて、だからこそこの曲があるんだとわかりますし、⾒ようとしてる景⾊は同じなんだと思います。近いうちに「どうでもよくないこと」を確かめあいましょう。 


3 ⼆⼈の間 

やっと平和な曲きた!(笑)いやー、これは安⼼して聴いてられますね。まぁなんかその、ちょっとあの、⾔葉にならないそんな感じ?ではあるんですけど、あれですね、いわゆる「間(ま)」の取り⽅が絶妙ですよね、歌も楽器も。全体的に隙間多めで、でもなぜかスカスカには感じない。エフェクトがいい味効かせてるからでしょうか。⾳以上気持ち未満の相槌的な何かがたくさん詰まってるんでしょうね、この曲には。で、たぶんこの曲のよさは弾き語りでは出せなくて、バンドサウンドにしないと表出しないものなんだと思いました。もはや「四⼈の間」ですね。 


4 四季 

この曲はきっとひとりひとりが違う物語や思い出を描く曲だと思うので、僕の妄想学園ストーリーをば。春パート、これは新学期とかでワクワクと不安が⼊り混じってる様⼦です。ドラムを背にひとりで歌い出すと、強めの春⾵みたいなエフェクトのかかった⾳が⼊ってくる。⼊学式の景⾊そのまんまですね、これは。俺、ひとりでもがんばるよ……みたいな。その⾵=不安?が吹いたまま夏に向かってくんだけど、やっぱり夏休みだからかワクワクが勝っちゃうんですね。刻むベースが前乗り感ですか?それを曲に与えていて、サークルの合宿楽しみだな!みたいな景⾊が浮かびます。で、秋になるとガラッと変わる。⼀般的に秋は寂しいイメージですけど、この曲は調⼦が明るい。むしろ常にバックで⾵=不安が響いてた春夏より安定している。たぶんこれは激動の夏を乗り越えて関係性がより強固になったんですね。だから体育祭とか学祭とか楽しくて仕⽅ない。歌詞もそんな感じですよね。喧嘩もするけどそれによって出し物の質が⾼まる......みたいな(学⽣に戻りたい!!)。それを経ての冬。もう完全に熟してますよね。どうでもいいときに降る雪に感極まれるんだから(笑)。もしかしたらこれは来たる新学期への不安なのだろうか。でも去年の春の少しエロい思い出があれば⼤丈夫ですね。......なんだこれ!?ようするに「僕とあなたの2⼈」以外の話としてもとらえることができる曲なのでは?ということです。 


5 愛す 

なにこれちょっとオシャレすぎません!?なぜか終始⽚⼿、いやもはや両⼿をハンズアップしてフロアをだらっと跳ねていたい気持ちが芽⽣えてくる......しかし悲しい曲なんですよね。なんですかこの愛しすぎる⽭盾は。肩にかけたカバンのねじれた部分がもどかしい。そういうピンポイントすぎる(のになぜかみんな撃ち抜かれる)切ないやつ、ずるいですよね、ほんと。 という冗談はさておき、この曲はやっぱりひとつの転換点でしたよね。明らかにバンドサウンドじゃないし、もちろんいわゆるロックでもない。でもクリープハイプの核である「ダブルミーニングで⽭盾を内包した感情を表現する」はむしろ完璧にキマってる。バンドサウンド/ロックじゃなくてもこれができるってことを証明できたのは⾃信に繋がっただろうし、このアルバムに顕著な「変化」もこの曲がキーポイントのひとつだったのかな、と思います。 


6 しょうもな 

イントロで「また変化球かな?」と思わせておいてからのザ・クリープハイプでした。特に歌詞が詰め詰めのサビを聴くと安⼼しますね。これだよこれ!って。コード進⾏も馴染みのあるもののような気がします。なので構成要素的には安定感&安⼼感のある曲なんですけど、ああいつものやつね、とはならないところにバンドの進化(深化/真価)があるんでしょうね。歌詞のように「これまだやるの?」とはならないので(笑)。たぶん、尾崎さんの中にある直球の怒りを⾔葉遊びや⽪⾁という変化球で表現しつつ、でもやっぱりその怒りは隠しきれずに漏れ出てるというか、球に重さがありますよね。だからバットに当てられても前には⾶ばない。前に⾶んでも野⼿の正⾯。打たれ強い。「お前だけに⽤があるんだよ」と打者に向かって⽕の⽟を投げ込む曲ですね。 


7 ⼀⽣に⼀度愛してるよ 

⻑年のファンであればあるほどちゃんと奥まで刺さってしまうセルフオマージュ祭りの1曲。「あ、これあの曲の」となるとこが随所に散りばめられていて、ファン度を確かめられている感じもありますね。ねえ、ちゃんとあたしのこと⾒てる?髪切ったの気づいてる?寝癖のままのほうがよかった?うるさいよ。みたいな。楽器の⾳使いも遊びだらけで楽しいし、軽い気持ちで聴けてしまう。でも本当はいちばん切実な曲なんじゃないでしょうか。インタビューやこの前のライブでも⾔ってましたけど、⻑くバンドを続けていくことで必ず⽣じる、飽きられることへの不安や「はじめて」になれないことへの物⾜りなさ(寂しさ?)がどうしてもある。だからそれを「歌にして逃げてしま」いながらこちらに投げてきてる。打たれたくはないけど、振ってほしい。⾒逃しは嫌だけど、振られるのも怖い。そういう⽭盾もちゃんと詰まってる曲な気がします。うん、アルバムの7曲⽬くらいがちょうどいいですね(笑)。 


8 ニガツノナミダ 

⾳楽を作る尾崎世界観と⼩説を書く尾崎世界観、その重なりを表現する曲なんじゃないでしょうか。それが曲の構成も含めたところで重層的に詰め込まれている、とんでもなく⾼度な箱物表現な気がしました。わかりやすいところからいくと、「締切に抱きしめられ」るのは⼩説家としての尾崎世界観、と思いきやミュージシャンとしての尾崎世界観でもある(締切は⾳楽活動にもある)。逆に「制約にくるまって眠る」のは歌詞を書く尾崎世界観でもあり、⼩説家の尾崎世界観でもある(制約は⼩説の世界にもある)。そして締切も制約も良い⾯悪い⾯があって、そのどちらも知ったからこそ書ける歌詞ですよね。加えて曲構成。最初30秒くらいで1段落分の歌詞パートが終わって、間奏のあと曲調が変わりますよね。残りの余⽣を楽しむパートでしょうか。でもこれもまた「しばられるなにしばられてる」ってことか?ってことへの⽪⾁的な表現とも⾔えるし、最後はやっぱりはじめのパートの雰囲気(でもちょっと違う)に戻るんですよね。⼩説を書き出して「あいつ魂売りやがった」って⾔われた(かもしれない)尾崎世界観が、「それはそれで悪くないからここはここ」と現在地に⾄る、といったところで、まだ続きがありそうな雰囲気のなか終わってしまうこの曲。30秒ももしかしたら30年とかかってますか?考え出したら終わらないですね。

⼈⽣か!! 


9 ナイトオンザプラネット 

印象的なギターリフから始まる、アルバムタイトルの元にもなっているこの曲はやはり⽩眉でした。シンプルなベースラインや多⽤されている鍵盤、全体的に漂う「やわらかさ」に寄り添うドラムも含めて、クリープハイプの変化を感じさせてくれる1曲ですね。周年記念ライブをやっていたはずの時間に作った、その空気感がなんとなく伝わってきます。ぼーっと、ひとり部屋の壁を⾒ているようで⾒ていない、頭の中ではたくさんのとりとめのないあれこれが渦巻いている、そんな夜。悲しいし寂しいしぶつけようのない怒りもあるんだけど、それらが昇華されるとこういうやさしい曲になる(それとも昇華させるためにはこの質感が必要だった?)のかもしれませんね。 

あと、この曲の主⼈公はきっとかつての恋⼈のことを思い出していて、その恋⼈はママになってたりする、みたいなのがメインの物語だと思ったんですが、いま実際にママになってるファン、つまり学⽣時代とかからクリープハイプを聴いてる⼈なんかはまた違う感慨に耽るんじゃないかな、と思いました。20周年のときに聴いたらまた違う聴き⽅になる、時間の経過とともに育っていく曲になるはずです。 


10 しらす 

実は僕はカオナシさん曲がとても好きで、アルバムが出るたびにご褒美のように楽しんでいます(笑)。今回もイントロ・ドンで「カオナシきたー!」となりました。毎回思うんですが、なんとなく⺠謡感というか、もはや妖怪感がありますよね、曲に。基本的に「いきもの」が出てくるからかもしれませんが。それともモノノケ感?なんだろう……森の中で⽕を熾して、そのそばでこの曲を聴いてる⾃分(とその周りにいつのまにか集まっている「いきもの」たち)感が常にある。でも不思議と怖くはないんですね。たぶんカオナシさんの視線や感性がその「いきもの」と同じところにあるからなんですけど、故にみんなで⽕にあたってる⾵景が思い浮かびます。それにしても「しらすのお⽬⽬は天の川」って......もうそうとしか思えないんですが......なんでそんな発想できる!?ってなるけど⼀度そう⾔われたらすぐにしっくりきてしまう......この感性は唯⼀無⼆ですね。『しらすのお⽬⽬』という題の絵が欲しいので描いてください(笑)。 


11 なんか出てきちゃってる 

曲というよりひとり芝居みたいな曲なんだけど、台詞も曲もどっちも主役張ってるっていう贅沢な曲。うまいもんにうまいもん乗せたらうまさ2倍で胃もたれもしない最⾼のうまいもんできちゃった、という。これはみなさん台詞が気になると思うんですけど、歌詞サイトには1⾏しか載ってないので諦めて聴き込みましょう(笑)。あと、ライブでやることになったら台詞はアドリブ⼊って⾯⽩そうですね。何が出てきちゃってるのかは各⾃ご⾃由にご想像ください。僕はアレだと思いましたね、アレ。そうそう、アレ。もしかして⼀緒のこと考えてますかね?たぶんそうですね。

じゃ、せーので⾔いましょうか。せーの......って⾔ったらだよ? 


12 キケンナアソビ 

尾崎⽂学・シリーズ「⾵俗」の最新刊であり最⾼傑作となった本作。このシリーズの特徴である反復と対⽐を伴った⽐喩表現、その精度がさらに⾼まっていることに注⽬したい。たとえばインディーズ時代の名曲〈⽋伸〉では⼥性⽬線からの「⽋伸」というワードで読者に場⾯を想像させ、メジャーファーストアルバムに収録の〈蜂蜜と⾵呂場〉では男性⽬線からの「バカみたいに⻭医者で/カバみたいに⻭医者で」という想起によって前作への応答(しかしそこにはズレがある)をしているように思える。そして本作〈キケンナアソビ〉では男⼥両⽅からの⽬線でひとつの⾏為、あるいは事象が表現されることになるのだが、そこで描かれる思いにはやはりズレがある。さらにこのズレを印象づけるのに⼀役買っているのが、「流す(嘘の)匂い〜⾸から上だけでも〜⼼がすり切れて揺らぐ/うつる匂い〜⾸から下だけでも〜体で繋ぎ⽌めて揺れる」の対⽐表現だ。流す-上-⼼、うつる-下-体。男⼥間の想いのズレと同時に⽣じる、ひとりの⼈間の中にある⼼⾝のズレ。そういったことも表現しているのかもしれない。10余年を経てもなお同じところにいるらしき2⼈と、それを描く尾崎の筆の精度に注⽬である。〔エロ⽂学評論家〕 


13 モノマネ 

はぁ〜〜〜〜……名曲......。名曲すぎて語彙が消失しかけましたがどうにか⾔葉を紡ごうと思います。が、ただの好きアピールにしかならない可能性があることを先に記しておきます。まず前提として〈ボーイズENDガールズ〉が好きだったんですね、でもそっちから話し始めると終わらないのでどうにかして〈モノマネ〉だけに絞りますが、続編ってなんですかもう、こういうの最⾼って⾔うんですよ(語彙再消失)。歌詞=物語については⼀旦おいて、⾳の話をしましょう。遠野遥さんも指摘してますけど、1番のギター。まずレフトからのディレイサウンドが続いて、途中から追いかけるようにライトから同じものが⼊ってくる、そしてサビ直前のほんの少しだけ2つが重なるんですね。これはもう完全に「物語」ですよ。こんだけしか重なってなかったのか!?ふたりの想いは!?うわあああああ!!!!!「&」じゃなくて「END」だった伏線がここで回収されたあああああ!!!!!「何も知らないあたし」はあたしだったあああああ!!!!!そうか......書き留めていた「君に伝えなくちゃいけない⾔葉」は、もしかしたら全然似てないあたしの「モノマネ」についてのことだったのかもしれないんですね……。ちょっと⾟いのでお⾵呂⼊ってきます。あ、シャンプー……。 


14 幽霊失格 

〈モノマネ〉に続いて名曲で、場所13⽇⽬までなんとか横綱に⾷らいついてきた幕内新⼊幕⼒⼠はもう息も絶え絶えなんですが、これもまた質の⾼い「物語」になっていますね。やっぱり聴く⼈によって様々な解釈の余地がある=各々の「物語」に寄せて聴くことができる曲だし、正確にはその「意図」が読み取れなかったとしても「なんかくる」ものがある。この理由を探ってみると、あまりにも出⾊がよすぎる歌詞に隠れて⾒過ごされがちな細かい部分にあるんじゃないかと思いました。この曲は結構「キメ」が多いですよね。ストロークに⼒が⼊るところや、⾳が⼀瞬消えるタイミング、それらが歌詞(ボーカル)のキメとリンクしている。だから脳のみならず⾝体(からだ)からも曲に没頭できるというか、共振していく感じがありました。そしてこのアルバム全体を通して意識していたという重⼼の低さもまた、曲の軸を安定させているように思えます。⽿に残るギターリフなのに、意識はふわふわと⾶んでいかない感じ。この「幽霊」と同じくらい地に⾜ついてるというか、むしろ成仏せずにちゃんと「そこにいる」。だからライブで聴いたら(あるいは⾃分が演奏したら)、⼼も⾝体も共鳴して、気づいたら涙が出てしまうと思います。⾳楽の本質が⾝体表現であることを思い出させてくれる曲ですね。幽霊の曲なのに。 


15 こんなに悲しいのに腹が鳴る 

アルバムラストを飾るにふさわしい余韻の残る曲。というかこれ以外は考えられないですね。イントロの時点で「これが最後だ」とわかるくらい出てます、オーラが(笑)。タイトルから既に⾒えている「⽭盾」と、⽭盾によって⽣じるどうしようもなさ。これはクリープハイプの最⼤の特徴で、かついちばんの武器だと思っているので、これが全編を通して存分に表現されているこの曲で締めくくられることがとてもうれしい。あと、これは僕の仮説なんですが、永遠にリピートしたくなる曲には「物⾜りなさ」があるんですね。え、ここで終わっちゃうの?もう1回サビ来てくれないの?そのフレーズをもっとくれよ……という聴き⼿の欲求をひらりとかわして終わってしまう。だからもう⼀度最初から聴いてしまう。この曲はまさにその典型だし、アルバム全体にもそういういい意味での「物⾜りなさ」(インタビューでは「もたれなさ」と表現されてたもの)があるし、この曲がラストに来ることでさらにそれが増す。なんかもう「これしかねえな」という。

ああ、こんなに聴きたいのに曲/アルバムが終わる。